はじめに
皆さんはイタリアルネサンスの絵画と言えばどのような作品を思い出しますか。
美術の教科書で見たことのある、ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』や『春(ラ・プリマヴェーラ)』がまず出てくるのではないでしょうか。
その他にも、ルネサンスを代表するレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロなどの有名な作品がイタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館に収められています。
今回はルネサンス絵画の宝を一堂に集めたウフィツィ美術館の中でもこれだけは見逃せないという作品の魅力をご紹介したいと思います。
ウフィツィ美術館とは
イタリアのフィレンツェにある美術館で、所蔵品の質、量ともにイタリア国内で最大の美術館であり、世界でもフランスのルーヴル美術館、スペインのプラド美術館、ロシアのエルミタージュ美術館などに並ぶ著名な美術館です。
また、「ウフィツィ」の名前は、美術館の建物がもともと当時フィレンツェで銀行家、政治家として、実質的な支配者であったメディチ家のオフィス(office)であったため、そのトスカーナ方言のUffiziに由来しています。
イタリアルネサンスの大パトロンでもあったメディチ家が財力にものをいわせて収集した膨大な美術品を中心に展示作品は2,500点にのぼり、キリスト教の宗教画が中心であった絵画の世界から古代ギリシャ・ローマ時代の人間性を解放した文化を復活させたルネサンスを代表する巨匠たちの絵画に溢れています。
ウフィツィ美術館へ
美術館はフィレンツェ観光の中心地でいつも多くの観光客で賑わっている「シニョリーア広場」の隣でアルノ川を背にして、ドーリア式の回廊の上に2階、3階部分が建設されたルネサンス様式の建築物で、全体としては巨大なU字型をしています。
入口は回廊の内側に3ヵ所あります。1ヵ所は、当日券販売窓口、2ヵ所目は予約者用入口、そして3ヵ所目は予約チケット受け取り窓口です。
当日券販売窓口には、いつも長蛇の列が出来ていてピーク時には2~3時間待ちは当たり前の混みようです。
予約するには、まずスマフォなどで美術館の公式ウェブサイトにアクセスし、希望日時を予約し、予約番号のメールを受け取ります。
予約した当日は入場時間より少し早めに、まず予約チケット受け取り窓口で、スマフォなどで予約番号を提示してチケットを受け取り、次に予約者用入口の係員にチケットを見せて短い列に並び順番に入館します。
予約をしていない場合は、混雑する日曜日や休館開けの火曜日の午前中を避けた方が良いと思います。
鑑賞の見どころ
館内は非常に広く45の部屋に2,500点もの作品が展示されているため、じっくり鑑賞しようとすると、一日、いや一週間あっても足りないのではないかとさえ言われています。
そこで、限りある時間を有効に使用するため、数ある作品の中から「これだけは絶対に見逃せない」という7作品をご紹介します。
『荘厳の聖母』ジョット・ディ・ボンドーネ
中世の教会はキリスト教の布教のため、聖書が読めない人たちに教会のステンドグラスや祭壇画などに、聖書の一場面を分かりやすく平面的に表現していましたが、1310年頃にオニサンティ教会の祭壇画としてジョットによって描かれた『荘厳の聖母』は、それまでの宗教画とは異なり、初めて遠近法を用いて、衣服や玉座の奥行や聖母の表情にスポットをあて、聖母がより人間的に感じられる描き方をしたのです。
当時としては前例のない画期的な描き方です。
ジョットは、この作品が従来の絵画の転換点となり、その表現方法から「ルネサンス絵画の父」と呼ばれています。
『ヴィーナスの誕生』サンドロ・ボッティチェッリ
ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』は、ウフィツィ美術館の中でも最も人気のある絵画の一つと言えるでしょう。
この作品は、従来のキリスト教の題材ではなく、古代ギリシア神話の愛と美の女神ヴィーナスの誕生を描いています。
海から出現したヴィーナスは、三人の女神ホーラに迎えられ、ホタテ貝の上に立っています。
生まれたばかりの裸のヴィーナスにホーラが差し出している美しい衣には、ヒナギク、桜草、ヤグルマギクなど、「誕生」の主題にふさわしい春の花が刺繍されています。
愛の女神ヴィーナスの甘美な姿を描いたこの作品の大きなテーマは、愛と美であると考えることができます。
『春(ラ・プリマヴェーラ)』サンドロ・ボッティチェッリ
絵の構図は、愛と美の女神ヴィーナスを中心に、左にヘルメスと三美神、右に春の女神プリマヴェーラ、花の女神フローラ、西風ゼフェロス、そしてヴィーナスの頭上にエロス(キューピッド)が描かれています。
この絵の解釈は諸説あるのですが、タイトルの『春(ラ・プリマヴェーラ)』を素直に解釈して、神の国で神々が西風によってもたらされる花が咲き誇り愛に満ち溢れた春の訪れを喜んでいるシーンを描いていると思われます。
その春の訪れを、ヘルメスが神々の使者というその役割から、神々の世界と人間の世界を繋げてくれる存在ともされていて、神々の世界に訪れた春の喜びを人間の世界にも伝えて、春の訪れを神々と共に喜ぼうとしているのではないでしょうか。
『受胎告知』レオナルド・ダ・ヴィンチ
ミケランジェロ、ラファエロと並ぶ盛期ルネサンスの三大巨匠の一人のレオナルド・ダ・ヴィンチですが、その中でもこのレオナルドは名実ともに最大の画家として知られています。
また画家としてだけではなく、建築家、科学者などとしても万能の人と讃えられました。
レオナルド・ダ・ヴィンチと言えば、誰もが『モナリザ』を思い浮かべるでしょうが、『受胎告知』は最も初期の作品であるにもかかわらず、この作品を見た師匠であったヴェロッキオは弟子であるレオナルドの才能に驚き、その後は自分の工房の絵画部門をレオナルドに任せたというぐらい素晴らしい作品なのです。
大天使ガブリエルがキリスト受胎を告げるために聖母マリアのもとを訪れた場面が描かれています。
大天使ガブリエルは、マリアが処女懐胎の奇跡によって「神の子」と呼ばれるイエスを授かることを伝えるために父なる神から使わされました。
マリアへの祝福の意を込めて、大天使ガブリエルは純潔の象徴である白百合をマリアに手向けています。
受胎告知を受けたマリアの静かな驚きと、気品に満ちた表情は穏やかでありながら、天の啓示に従うことを決意した瞬間が切り取られているかのように感じられます。
『聖家族』ミケランジェロ・ブオナローティ
ミケランジェロは『ピエタ』、『ダヴィデ像』の彫刻やシスティーナ礼拝堂の天井画と祭壇画『最後の審判』など、主に教会から依頼されて制作されたものが有名ですが、この『聖家族』は、フィレンツェ滞在時ドーニ家から依頼されて制作され、ミケランジェロの板絵として唯一の貴重な絵画です。
聖母マリアとキリストを中心に聖人を配する構図ですが、この作品は聖母マリアの夫の聖ヨセフを描いているのが特徴です。
我が子を見上げる聖母マリアの表情は愛情と崇敬の念に満ちているのと同時に、母としての強さが、そして聖ヨセフと聖母マリアが人間の夫婦のように幼子キリストを二人で慈しんでいる様子が、彫刻家であるミケランジェロならではの人体表現と、見事な色彩によって表現されています。
『ひわの聖母』ラファエロ・サンティ
背景に遠くまで見渡される自然を選び、聖母マリア、幼子イエスと洗礼者ヨハネを、聖母を中心とした三角形の構図の安定した佇まいの中に描かれています。
聖母の両膝にやさしく守られているようにして立つ幼子イエスと、聖母の右脇に寄り添う幼き洗礼者ヨハネ。
シンボルである毛皮を纏った洗礼者ヨハネは小さな両手で鳥(ひわ)を持ちキリストに差し出し、キリストがそのひわに右手をのばしているシーンが描かれています。
一見してみると三人が自然の恵みのもとでゆっくりと平和な時間を過ごしているように見えますが、キリスト受難の象徴ともいうべきひわを幼子キリストが手にしようとしていることで、将来十字架を背負ってゴルゴダの丘に向かうキリストの姿が暗示されているのです。
『ウルビーノのヴィーナス』ティツィアーノ・ヴェチェッリオ
ルネサンスの初期においては、それまでのキリスト教世界から解放されて、ギリシャ・ローマ時代の神話や神々などを題材にしていましたが、特にフィレンツェでは当時のギリシャ哲学的な考え方を背景にして、美の女神ヴィーナス像は慎み深い表現が多かったのですが、一方ヴェネツィアでは東方交易を中心とした自由な雰囲気の中、官能的な女神が登場しました。
そのような傾向の中で、ティツィアーノが描いたヴィーナスは、一糸まとわぬ姿で静かに横たわり、柔らかな微笑みを浮かべ、女神としての神聖性を訴えると共に、ある種の官能を呼び起こす表現がなされています。
また輝くような色彩や、永遠の愛や悦びを象徴する薔薇を持つヴィーナスの肌の質感、女性美の象徴とも言える丸みを帯びた裸体は、ヴィーナスを表現する典型的作例として、後世の画家たちに多大な影
響を与えることとなりました。
おわりに
ウフィツィ美術館は、膨大な絵画を展示していますので、誰のどの作品を必ず見たいか、できれば事前に調べておいた方が良いと思います。
しかしチェックした著名な絵画を選んで見るだけでも数時間はかかりますので、時々は廊下にある椅子で少し休んだり、窓から見えるアルノ川にかかるポンテ・ヴェッキオや2階のテラスから花のドーモなどを眺めて一息をついて、また新たな気持ちで作品を見ると、名前も知らない画家の絵画に心を打たれることがあります。
どうぞ、数ある作品の中であなたにとってのベストワンの作品を見出してください。
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