日本酒×落語のコラボを愉しむ
さて、今回「最旅 SAITABI」が訪ねたのは神奈川県厚木にある酒屋「望月商店」さんの開催する〈落語と国酒を楽しむ会〉(2017年10月29日開催)というイベントに参加しました。日本の文化である落語を堪能したあとに、こちらも伝統文化息づく日本酒を堪能できるというなんとも贅沢かつ、刺激的なイベントでしたので紹介します。
望月商店 主催の〈 落語と国酒を楽しむ会 〉とは?
〈落語と国酒を楽しむ会〉とは望月商店が主催するイベント。落語・お酒各々を是非ライブ感で体験してして欲しいという意図で毎年開催されています。共に伝統文化である「落語」と「日本酒」、至近距離でたっぷり味わえる内容になっています。アイデアに溢れ楽しいことが大好きな望月商店さんらしい、誰もが居心地良く楽しめる会です。
第一部は、店主の趣味が高じた 落語を楽しむ会
例年この時期開催される〈落語と日本酒を楽しむ会〉は、今年で11回を迎えました。開始当初から11年間、皆勤賞なんていうコアな若い女性ファンもいらっしゃるほどの人気ぶりなんです。小学生のお子さんから大人まで誰もが楽しめます。
高座には落語家の立川生志師匠を招いて“たっぷり”の二席を楽しみます。実は生志師匠、二ツ目時代からこの望月商店の寄席の会で演じてこられたという望月商店とは長いつきあいのある落語家さんです。高座前の挨拶では望月商店の専務自ら「望月商店が立川生志を育てた」といじって、客席を笑わせました。
立川生志師匠の落語
出囃子が鳴り、大きな拍手で迎えられた生志師匠。期待と興奮の眼差しが高座に寄せられます。
高座前の望月専務の挨拶の話題で「二つ目の若手と呼ばれる時代からお世話になってましてね。真打ちになってもギャラが変わらない。これが望月スタイル。」と毒づいて会場をどっと沸かせました。プライベートでも親交の深い望月一家と生志師匠。だからこそジョークを交えながら気軽な話題にして笑いに変えます。落ち着きのある語り口と独特のブラックユーモア。これがまた、いい具合の立川流といいますか、適度なバランス感覚の良さでうまい具合に会場を温めます。
普段は居酒屋である場所を手作りした会場は、高座と客席を至近距離で縮め、笑いで溢れる良い一体感を生みます。生志師匠は「マイクを使わずに語れる丁度よい広さ」と会場を褒めて「寝るとすぐにわかりますよ」といってまた客席をどっと沸かせました。演目は『短命』と『二番煎じ』の二席。古典落語を見事に聞かせ、会場を沸かせます。
落語の演目
一席目『短命』
一席目は「美人の女房がいると、夫が短命」という演目『短命』。
察しの良い方は「ああ、そういうことね」とお気づきかとおもいますが、夫婦の話しです。この噺、どうして短命なのか気づかない初心(うぶ)な問いをする男と、夫婦のことだけにどうも答えにくい理由にも関わらず諭すように語る隠居の純和風な話しぶりの表現が面白いんです。聞いている方までちょっとドキドキしたり馬鹿笑いしたり。「うちは長生きだ!」というサゲまでたっぷり笑えます。
二席目『二番煎じ』
冬の寒い日、町内を交代で二組にわかれて「火の用心」の巡回に。外は火の用心の拍子木を持つのも手がかじかんで嫌になるほどの寒さ。ついつい袖で手元を隠して、やる気の無い連中が登場します。二組目の巡回中、一組目は番小屋で火にありついたところで、誰彼ともなく、「煎じ薬だ」といっては酒をだし、鍋が出て、肉が出て、こそこそと鍋をつつき合う。「まずは、月番さんから、どうぞどうぞ」男衆の呑べえらしいやりとりがこれも可笑しくてたまりません。ちょっとしたしんと冷えきった澄んだ空気に、戸口の隙間からほかほかと鍋の湯気が漏れてきそうな旨いお噺です。二席終えてついついお腹がグウと鳴って、煎じ薬もいただきたいなとすっかり世界観に入り込んでしまいました。
立川生志(たてかわしょうし)プロフィール
1963年(昭和38年)12月16日生まれ。福岡県筑紫野市出身
1988年 立川談志に入門
1997年 二ツ目昇進
2002年 『NHK新人演芸大賞』審査員特別賞
『にっかん飛切落語会』優秀賞
2003年 『彩の国落語大賞』技能賞 他、多数受賞
2008年4月 真打ち昇進。高座名「生志」に。
2009年春 後腹膜腫瘍で入院。同年8月復帰。
独演会 生志のにぎわい日和(横浜)
国立演芸場『ひとりブタ The PREMIUM』(東京)
第二部では日本酒 の美味しさを生志師匠と
二席の興奮が冷めやらぬまま、会場を替えて「料理とお酒の会」へ。日本酒を主体とした会ですがこちらも年齢問わずで楽しめます。この日一番のオススメの旨い酒に美味い肴。そして今まさに、高座で演じていた生志師匠とお酒を酌み交わせるとあって、なるほど、ファンが集うのが頷けます。思わず師匠にお料理を勧めれば「いやいや、月番さんから」なんて、たったいま『二番煎じ』で聞いたあのフレーズを言って、またも“たっぷり”と笑いを誘います。
お酒は福島の『国権酒造』と茨城の『森島酒造』のお酒です。国権酒造の細井社長、森島酒造の森島社長が気さくに挨拶をされて会場の一人ひとりに全てお酌をして回られました。
料理と銘酒を楽しむかい?!
一酒一酒、趣向を凝らしたのがよくわかる丁寧で、特徴的な味わいです。7種の日本酒の味わいが無数にも広がる美味しさを楽しめます。刺し身や揚げ物などのおつまみと合わせても、どれもが食事の味を邪魔することなく引き立てあういい役回りです。途中、「煎じ薬ですよ」と熱燗が回る場面も。落語と国酒を楽しむ会のタイトルを忘れない気の利いたやりとりです。初対面のお隣同士がお酒を通して、新しい縁が出来上がっていきました。
それでは国権酒造さんと森島酒造さんの紹介とお酒を紹介します。
出品酒の紹介
国権酒造
国権酒造は福島会津の酒造。細井社長は「酒より落語を愛しているかも?」と語るほどの落語好きです。全国鑑評会で10年連続金賞をとっている実力のあるお酒をつくっています。平均精米歩合は55%という拘り。奥会津の水・米・麹・酵母すべてに拘りのある酒造りをしている酒蔵です。今回提供してくれたのはこちらの四種です。
- 国権 大吟醸 斗瓶取り 出品酒
- 国権 てふ 純米 生酒
- 国権 山廃特別純米 50
- 国権 純米 夢の香
森島酒造
森島酒造は茨城県日立市の酒造です。酒米の上品な旨味を表現した「大観」は森島酒造の銘柄で、その味わいは食中酒としてさまざまな味わいで表現されています。透明感な味わいとフレッシュでフルーティにも香る味わいは口に含んだときに驚き、さまざまな料理を引き立てまた驚く楽しい味わい。日本酒の魅力を最大限に引き出しています。鑑評会では数々の優秀賞を受賞している酒造です。今回提供してくれたのはこちらの三種です。
- 大観 雄町 純米吟醸
- 大観 美山錦 14号酵母 純米
- 大観 ひたち錦 14号酵母 純米吟醸
望月商店 ってどんなところ?
大正八年創業、老舗の酒屋。望月商店
今回この〈落語と国酒を楽しむ会〉を企画した望月商店について紹介します。
わたしがこの店の方と出会ったのは、別の日本酒と落語の会で出会ったご縁でした。望月商店の望月専務がちょうどその会でもお酒を紹介をされていて、ぐい呑を片手に会場がその一杯を愉しんでいるときのお酒の話しがとてもおもしろかったのを覚えています。その頃までのわたしは、日本酒は元々味わいとしては好きでしたが、お祝いか特別な席でしか呑む機会がないためになにか遠い存在でした。ところがあの日、初めて日本酒をいただきながら、作り手の顔と想いというのが見えた気がしました。わたしにとっては望月商店は日本酒の新たな美味しさを教えてくれた存在です。
特約店ならではのお酒の入手ができるかどうかは蔵元との固い信頼関係が無いとできないことです。望月商店はまだ地酒そのものが定着する前の時代から入荷して販売するという老舗にして先駆けともいえる酒屋です。通販やコンビニができたことにより街の酒屋の多くが姿を消えつつあるなかで、神奈川県本厚木の一店舗で対面販売をしながら、親子三代のバトンを繋いできました。
顔の見えて気持ちがわかる酒を伝えたい
まだ日本酒を測り売りしていた頃、酒屋さんによっては金魚が泳げるほど水で薄めた酒を売っていたお店もあった中、望月商店の酒は原酒に近い状態で販売していたので、酒飲みファンの信用が厚く、評判が良かったと聞いています。
以前こんな話しを望月専務からうかがいました。測り売りすら今は無くなりましたが、先代の望月商店と仕入れから商品を大切に販売するスタンスは変わっていないようです。蔵元は、米・水・米麹・精米歩合、こだわり抜いて酒を作り、信頼して酒屋に託す。酒屋の方も、蔵元の酒をお客さんにきちんと伝え、販売する。シンプルなようでいてそのシンプルを大事に育て続けてきたからこそ、蔵元さんからもお客さんからも 信頼されこの関係が続いてきたのかもしれません。
まだまだやりたい夢を持っている酒屋
あと2年で100年。大きな節目を迎えるにあたって望月商店さんにはまた夢が次々と生まれているようです。
これまで集めてきた年代物の熟成酒はいつか形にしたいと思っていたところに、お酒に詳しい信金の常務さんにショールームのように見せたらどうかというアイデアをもらったのだそう。持ち前の明るさと行動力でさまざまな出会いがあって、つながることで夢が広がる。こういう夢のきっかけというのも望月商店さんらしいはじまりです。そして何より驚くのは、それを夢のままにせずに形にすること。熟成酒のショールームづくりりは、これまで倉庫に利用していた建物に3種類の温度管理のできる冷蔵庫を設置して、外壁塗装にはJAXAが使っている断熱塗装を施すなどこれからの何十年という未来を見据えた取り組みです。また、これからこの場所を使って日本酒に合う料理をしたり、勉強会を開けるよう、空調設備や調理台を設置するなど展望はしっかりと土台と骨組みから形作られています。これからたくさんのお客さんが日本酒を楽しめるように歴代のぐい呑がずらりと飾り、これから触れ合う人々の日の目を楽しみに待ちます。
夢が形になっていくのと同時進行でまた多くのつながりがうまれ「日本酒が楽しめるきっかけを広げたい」と次々とアイデアになり膨らみます。そのたびに、人のつながりがまた手助けして形になり変化します。形にできる動力は蓄えたノウハウが後押しして、次へ次へと繋がっていきます。
あと二年。100年目を迎えようとしている望月商店は、100年後も夢をもったキラキラとした目でわたしたちに「酒」の美味しさを届けてくれる予感がします。店舗のリニューアルは2018年2月。ぜひお立ち寄りください!
茨城県出身の40代。20年住んだ東京を離れ2歳の子どもと広島に移住。好きなものは文具とちょっと古い鉄が使われた道具。酒と落語とグアテマラのコーヒーが楽しみ。競馬や釣りにもチャレンジ!前職は靴製造・修理業だったので、履きやすい靴も紹介します。
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